ダブルスキルを取得してキャリアアップを目指そう。
就職や転職を考えたとき、「人に言えるほどのスキルがない」と感じる人は多いと思います。特にフリーターの場合、アルバイトの経験をスキルとして数えていいのか迷いがちです。
でも、スキルは一つだけで勝負する必要はありません。仕事の中心になる経験に、それを補う「もうひとつの力」を組み合わせたものを、この記事ではダブルスキルと呼びます。ここでは、キャリアの棚卸しのやり方から、アルバイト経験と資格の組み合わせ例、学び直しに使える公的な制度までをまとめました。先に結論を書いておきます。
- ダブルスキルは、今ある経験(主軸)に、仕事の中でつながる力をひとつ足す考え方
- まずは棚卸しシートで経験を細かく書き出す。主軸の候補は、たいていアルバイトの経験の中にある
- 足すスキルは、主軸の仕事で使う場面を一文で説明できるものを選ぶ
- 学び直しの費用は、条件を満たせば教育訓練給付などの公的な制度で一部をまかなえる
キャリアの棚卸しで「もうひとつの強み」を探す
キャリアの棚卸しとは、これまでの仕事を振り返って、何をしてきたか、そのときにどんな力を使ったかを整理することです。厚生労働省が様式を定めている「ジョブ・カード」でも、職業経験の棚卸しは、自分を理解するための出発点として位置づけられています。
棚卸しが必要なのは、自分の経験は自分にとって当たり前すぎて、強みとして気づきにくいからです。たとえば、毎日レジ締めで金額を合わせていた人は「数字を正確に扱う」経験を、新人に仕事を教えていた人は「人に教える」経験を持っています。本人は「ただのバイト」と思っていても、書き出してみると、仕事で使える力が見えてきます。
ダブルスキルを考えるときは、スキルを次の2つに分けると整理しやすくなります。
| 主軸のスキル | もうひとつのスキル | |
|---|---|---|
| 役割 | 仕事の中心になる経験や能力 | 主軸の仕事をよりうまく進めるための力 |
| 見つけ方 | 長く続けた仕事、任された仕事から探す | 主軸の仕事で「足りない」「あると助かる」と感じた場面から探す |
| 例 | 接客、調理、倉庫での作業、事務の補助 | 医薬品の知識、衛生管理、フォークリフトの運転、表計算 |
大切なのは、ふたつのスキルがばらばらにあることではなく、ひとつの仕事の中でつながっていることです。
正社員を目指すなら、スキルをどう伝えるかは待遇にも関わってきます。厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」によると、フルタイムで働く人の月の所定内給与の平均は、正社員・正職員が35万8,800円、正社員・正職員以外が24万1,700円でした。職種や年齢の違いも含んだ平均ですが、雇用形態によってこれだけの差があります。自分の経験を「仕事の力」として説明できるようにしておくことは、正社員の求人に応募するときの土台になります。
棚卸しシートを作って経験を書き出す
棚卸しは、頭の中で思い出すだけでは不十分です。紙でもスマホのメモでもいいので、表の形で書き出してみましょう。進め方は次の4つの手順です。
手順1:働いた場所と期間を書き出す
アルバイト、派遣、短期の仕事も含めて、働いた場所を順番に並べます。数か月で辞めた仕事も、いったんすべて書きます。
手順2:担当した作業をできるだけ細かく書く
「接客」の一言で終わらせず、「注文を受ける」「会計をする」「予約の電話に出る」「クレームの一次対応をする」のように、動作の単位まで分けて書きます。細かく分けるほど、使っていた力が見えやすくなります。
手順3:その作業で使った力に名前をつける
「会計」なら「お金を正確に扱う力」、「新人への説明」なら「人に教える力」というように、作業ごとに使った力を書き添えます。
手順4:「任された」「工夫した」「数字で言える」ものに印をつける
リーダーを任された、やり方を変えて早くなった、何人に教えた、といったものは、面接で具体的に話せる材料になります。
書き方の見本として、架空の記入例を載せておきます。
| 期間 | 働いた場所・立場 | 担当した作業 | 使った力 |
|---|---|---|---|
| 2年 | 飲食店のアルバイト(ホール) | 注文と会計、開店前の準備、新人2人への仕事の説明 | 接客、段取り、人に教える力 |
| 1年半 | ドラッグストアのアルバイト | レジ、品出し、売り場の並べ替え、商品の場所を聞かれたときの案内 | 接客、商品の知識、売り場づくり |
| 3か月 | 倉庫の短期アルバイト | ピッキング、検品、出荷前の数量確認 | 正確さ、作業の速さ |
書き終えたら、「使った力」の列を見て、何度も出てくる言葉を探します。この例なら「接客」が何度も出てくるので、これが主軸の候補になります。
次に、主軸の仕事で「困ったこと」「あったら助かったこと」を思い出します。たとえばドラッグストアで、お客さまから薬について聞かれても答えられず、ほかの人に代わってもらっていたなら、そこが「もうひとつのスキル」を足す場所です。
厚生労働省の「マイジョブ・カード」というサイトでは、ジョブ・カードの職務経歴シートなどを画面の案内に沿って作成・保存できます。興味診断、スキルチェック、価値観診断という3種類の自己診断ツールもあり、作ったジョブ・カードの内容を転記して履歴書や職務経歴書を作ることもできます。一から表を作るのが面倒な人は、使ってみるとよいでしょう。
一人で書き出すのが難しいときは、人に質問してもらいながら整理する方法もあります。全国のキャリア形成・リスキリング支援センターや、ハローワークの相談コーナーでは、ジョブ・カードを使ったキャリアコンサルティングを無料で受けられます。就職を急いでいるなら、ハタラクティブのようなフリーター向けの就職エージェントの面談で、アルバイト経験を聞き取ってもらいながら応募先まで一緒に考えるのも手です。
アルバイトの職種ごとに身につきやすい力は、こちらでもまとめています。
企業に評価されやすいダブルスキルの組み合わせ例
ここからは、アルバイトの経験を主軸にしたときの組み合わせ例を紹介します。どれも、その仕事の中で「もうひとつのスキル」を使う場面がはっきりしているものです。実際に求められているかどうかは、応募したい求人票の「必要な資格」「歓迎する経験」の欄で確認してください。
| 主軸(アルバイト経験) | もうひとつのスキル | つながる仕事 |
|---|---|---|
| ドラッグストアでの販売 | 登録販売者 | ドラッグストアの販売・店舗運営 |
| 飲食店のホール・キッチン | 食品衛生責任者 | 飲食店の店舗スタッフ、店長候補 |
| 倉庫・物流の作業 | フォークリフト運転技能講習 | 物流センターのスタッフ、倉庫管理 |
| 接客・販売全般 | 宅地建物取引士 | 不動産会社の営業 |
| 事務の補助・データ入力 | 日商簿記、MOS(Excel) | 経理、一般事務 |
それぞれの組み合わせについて、制度上のポイントと、面接での伝え方の例を見ていきます。
ドラッグストアの販売×登録販売者
登録販売者は、一般用医薬品のうち第2類・第3類医薬品を販売できる資格です。東京都保健医療局の案内によると、平成27年4月から受験資格の実務経験の要件がなくなり、学歴や実務経験を問わず受験できます。ただし、合格すればすぐに店舗を任されるわけではありません。店舗の管理者などになるには、過去5年間にドラッグストアや薬局などで働いた期間が通算2年以上(決められた追加の研修を受けた場合は1年以上)あることなどの要件があります。京都府の案内では、資格を取る前に薬剤師や登録販売者の指導のもとで働いた期間も数えられるとされています。勤め先に証明してもらう必要があるので、数え方は働いている都道府県の案内で確認してください。
伝え方の例
「ドラッグストアのアルバイトで、お客さまから薬について聞かれても自分では答えられず、ほかのスタッフに代わってもらうことがよくありました。自分で説明できるようになりたいと思い、登録販売者の試験に向けて勉強しています。」
飲食店のホール・キッチン×食品衛生責任者
食品衛生法施行規則では、飲食店などの営業者は食品衛生責任者を定めることになっています。調理師などの資格を持っていない人でも、自治体などが行う講習会を受ければ食品衛生責任者になれます。店長候補や店舗運営の求人では、接客や調理の経験に加えて、衛生管理の知識があることを伝えやすくなります。
伝え方の例
「キッチンで仕込みを担当するなかで、食材の温度や保管の決まりを守ることの大切さを知りました。店舗全体の衛生管理にも関わりたいと考え、食品衛生責任者の講習を受けました。」
倉庫の作業×フォークリフト運転技能講習
労働安全衛生法の決まりで、最大荷重1トン以上のフォークリフトを運転するには、登録を受けた教習機関で行う技能講習を修了している必要があります。倉庫での作業経験がある人なら、荷物の流れや安全の決まりをすでに知っているので、運転の資格が加わると任せてもらえる範囲が広がります。
伝え方の例
「倉庫の短期アルバイトで検品と出荷前の数量確認を担当しました。荷物を運ぶ作業にも関わりたいと思い、フォークリフトの技能講習を修了しました。」
接客×宅地建物取引士
宅地建物取引業法の決まりで、不動産会社の事務所には、業務に従事する人の5人に1人以上の割合で専任の宅地建物取引士を置く必要があります。お客さまと話す経験がある人が宅地建物取引士の資格を持っていると、営業と契約の説明の両方に関わりやすくなります。試験の難易度は高めなので、応募の時点では「勉強中」と伝える形でもかまいません。
事務の仕事を目指す場合は、アルバイトで売上の集計や発注の数字を扱った経験と、日商簿記やMOSを組み合わせると、仕事の中で使う場面を説明しやすくなります。
フリーターにおすすめの資格は、目的別にこちらで整理しています。
ダブルスキルは資格どうしの組み合わせに限らない
ここまで資格の例を中心に紹介しましたが、「もうひとつのスキル」は資格でなくてもかまいません。むしろ未経験の求人では、資格よりも「実際に何をやったか」を聞かれることが多いものです。
| 主軸 | 資格ではない「もうひとつ」 | 具体的な形 |
|---|---|---|
| 販売・接客 | パソコンでの資料づくり | Excelで売れ筋の表を作り、発注の相談に使った |
| 飲食店の調理 | SNSでの発信 | 店のSNSで新メニューの写真を投稿する係を任された |
| どの職種でも | 人に教える経験 | 新人向けの作業手順のメモを作った |
| コールセンター | 聞き取った内容を整理する力 | よくある問い合わせをまとめて共有した |
こうした経験は、資格のように証明書があるわけではないので、作ったものや数字で見せるのがコツです。自分で作った表や手順メモが手元にあれば、面接で「こういうものを作っていました」と説明できます。数字は、何人に教えたか、どれくらいの期間続けたかなど、正確に言えるものだけを使いましょう。
また、ふたつのスキルの組み合わせを伝えるときは、「主軸の経験」→「そこで感じた課題」→「足したスキル」→「入社後にどう使うか」の順に話すと、聞き手が流れを追いやすくなります。自己PRの組み立て方は、こちらも参考にしてください。
スキルを身につける費用は公的制度で軽くできる
資格の講座には費用がかかりますが、条件を満たせば、雇用保険の「教育訓練給付」で受講費用の一部が戻ってきます。厚生労働省の案内をもとに、令和6年10月以降に始まる講座の給付の内容をまとめると、次のとおりです。
| 種類 | 基本の給付 | 追加の給付 |
|---|---|---|
| 一般教育訓練 | 受講費用の20%(上限10万円)。修了後に支給 | なし |
| 特定一般教育訓練 | 受講費用の40%(上限20万円)。修了後に支給 | 資格を取り、修了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇われると50%(上限25万円) |
| 専門実践教育訓練 | 受講費用の50%(年間上限40万円)。受講中に6か月ごとに支給 | 資格を取り、修了後1年以内に雇われると70%(年間上限56万円)。さらに賃金が5%以上上がると80%(年間上限64万円) |
給付を受けるには、雇用保険に入っていた期間(支給要件期間)が原則3年以上必要です。初めて給付を受ける人は、一般教育訓練と特定一般教育訓練なら1年以上、専門実践教育訓練なら2年以上で対象になります。すでに仕事を辞めている人も、離職した日の翌日から受講開始日までが1年以内なら対象になります。
アルバイトでも、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上働く見込みがあれば、原則として雇用保険の被保険者になります。給与明細で雇用保険料が引かれているか確認してみましょう。なお、法改正により、2028年10月からは週10時間以上に対象が広がる予定です。
注意したいのは、特定一般教育訓練と専門実践教育訓練は、受講開始日の2週間前までに、訓練前のキャリアコンサルティングを受けたうえでハローワークで手続きをする必要があることです。訓練前のキャリアコンサルティングは予約制なので、講座に申し込んでから気づくと間に合わないことがあります。受けたい講座が決まったら、先にハローワークに相談しておきましょう。対象の講座は、厚生労働省の「教育訓練講座検索システム」で探せます。
雇用保険に入っていなかった人や、給付の条件を満たさない人は、受講料無料で職業訓練を受けられる求職者支援訓練という制度もあります(テキスト代などは自己負担)。条件を満たせば、訓練中に給付金も受け取れます。
つながりのないスキルは、かえって説得力を下げる
ダブルスキルで気をつけたいのは、「なんとなく役に立ちそう」「人気があるから」という理由だけでスキルを選ばないことです。主軸の経験とつながっていないと、面接で「なぜそれを勉強したのですか」と聞かれたときに、うまく答えられません。「いつか役に立つと思って」という答えでは、入社後にどう使うのかが伝わらず、せっかくの努力がもったいない結果になってしまいます。
スキルを選ぶ前に、次の3つを自分に聞いてみてください。
- 主軸の仕事の中で、そのスキルを使う場面を一文で言えるか
- 応募したい求人票に、そのスキルに関係する言葉が書かれているか
- そのスキルを身につけたあと、どんな仕事をしている自分が想像できるか
ひとつでも答えにつまるなら、選び直すか、先に棚卸しシートに戻って主軸を固めるのがおすすめです。
もうひとつ気をつけたいのが、資格の勉強を理由に就職活動を先延ばしにしてしまうことです。資格を取り終えるまで応募しない、と決める必要はありません。勉強中であることは、履歴書や面接で「〇〇の取得に向けて勉強中」と伝えられます。応募しながら勉強を続け、入社後に仕事と結びつけて仕上げていくほうが、主軸とのつながりも自然に説明できます。
一度にいくつものスキルに手を出すのも避けましょう。まずはひとつを選んで、仕事で使える状態にしてから、次を考えるくらいがちょうどよいと思います。
まとめ
- ダブルスキルは、主軸の経験に、仕事の中でつながる力をひとつ足す考え方
- 棚卸しシートで作業を細かく書き出し、何度も出てくる力を主軸の候補にする
- 「もうひとつ」は、主軸の仕事で困った場面、あったら助かった場面から探す
- 資格でなくても、作ったものや数字で示せる経験はダブルスキルになる
- 教育訓練給付は雇用保険の加入期間などの条件つき。特定一般・専門実践は受講開始の2週間前までに手続きが必要
- つながりのないスキルは説得力を下げる。資格の勉強中でも応募はできる
棚卸しをしてみると、自分では気づいていなかった主軸が見つかることがよくあります。
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